ゴルディオスの結び目

前回はソロモンの結び目を紹介しました。
「結び目」つながりで、思い出したお話を。
古代ギリシアの伝説です。
 
現在のトルコ北西部に、かつてフリュギアという国がありました。
あるとき人々が王様を選ぼうとしていると、
神様のお告げがくだりました。それは、
「未来の王は荷車に乗って来る」というものでした。
 
人々が、これは一体どういう意味だろうと首をひねっていると、
そこへ妻と子供を荷車にのせたゴルディオスという貧乏な農夫が
通りかかりました。
これぞ神の思し召しと思ったフリュギアの人々は、
彼を王として迎えました。
 
ゴルディオスは自分を王様にしてくれた神に感謝し、
荷車を奉納しました。荷車を綱で神殿に結びつけたのです。
その結び目はすざまじく複雑、厳重なものだったので、
誰もそれをほどくことはできません。
 
いつのまにか“ゴルディオスの結び目を解いた者は
全アジアの王になれる”という言い伝えが生まれました。
多くの人々が結び目をほどこうと挑みましたが、
やはり誰も成功しませんでした。
 
そこへ、東方遠征の途上にあるアレクサンドロス大王
通りかかりました(紀元前4世紀後半)。
彼はアジアの大国アケメネス朝ペルシア帝国を滅ぼすべく
フリュギアに上陸した、マケドニアの王です。
 
アレクサンドロスは、結び目の言い伝えを聞いて
それを解こうしましたが、どうしてもほどけません。
業を煮やした彼は突然、腰の刀を抜き、
エイヤッとばかりにその結び目を一刀両断しました。
彼はその後、数度の戦いの末にペルシアを滅ぼしました。
言い伝えは成就したのです。
 
ここから英語では、“非常手段を講じて難題を一挙に解決する”
ことを、cut the Gordian knot (ゴルディオスの結び目を断つ)
と表現します。日本語でいう、快刀乱麻を断つ、ですね。
 
ちなみに、ゴルディオス王の息子は、
「王様の耳はロバの耳」でおなじみのミダス王です。
トルコのアナトリア文明博物館(アンカラ)には、
ゴルディオス(地名)で発掘された
ミダス王のものと思われる王墓が再現されています。
 
まだまだ神話と現実の区別がつかない時代のお話でした。